小さな贈り物

幼い頃は引っ込み思案で、気がつけばお部屋の隅で絵を描いたり、工作をしたりの毎日でした。絵を描いている間はとても幸せで、自然と歌ったりして本当に楽しそうにしていたと、母も話しています。特に、カードなどに絵を描いては、家族や親しい友達にプレゼントすることが大好きで、大人になった今もその想いは変わらないようです。
私にとって絵を描くことは、見る人にほっとするような暖かい、幸せな気分を届けること。作品は見る人への「小さな贈り物」であり、その想いが、私の作品の原動力です。大学では主にデザインを学びましたが、コンピューターを使っての作品作りに興味が持てず、卒業後に趣味で始めたのが銅版画でした。

フランスの窓から

ヨーロッパの銅版画には、古い歴史があります。デジタルでスピーディな世の中で、あえて手間のかかる手仕事、それが生み出す何とも言えない優しいアンティークな風合いに惹かれ、もう10年以上続けています。大学卒業後は東京で版画活動をしていましたが、違う環境で自分の作風を広げたいと、30歳を前に版画の先輩に紹介して頂いたオランダの学校へ留学。運良く日本からの奨学金もいただけ、計2年オランダで活動しました。その後、結婚を機にパリに移住。現在はパリの街や心ひかれる身の回りのオブジェを描き、女性であること、日々思うことを、作品を通して表現しています。見る人が暖かく、優しくて幸せな気分になるような、ちいさな贈り物のような絵を描いて行けたら、と思っています。
グランドをコーティングした銅版に、ニードルで描画(ニードルでコーティングを削り取る)。その銅版を酸に浸すと描画した部分が腐食され、意外と簡単に版がつくれます。この後、色を塗る感じでインクを版に詰めていき、プレス機で圧縮して銅版画が完成します。
あべ さやか
仙台市生まれ。京都工芸繊維大卒。2007年にユトレヒト美術学校へ留学。ポーラ美術振興財団在外派遣研修員として、オランダにおける身体と環境に安全な版画制作方法を学ぶ。2009年にパリ移住。現在はパリ郊外のAtelier aux Lilasにて活動中。
 

世界中から日本を支援

震災の時は、翌日まで家族とも連絡がとれず、ネットやNHKの国際放送から流れる辛い情報と映像に、涙を流すばかりでした。離れているからこそ故郷のことを想い、役に立ちたいという在仏日本人も多く、今なお各地でチャリティーイベントやコンサートが開催されています。私も震災直後の4月に行われたチャリティーコンサート“Tsunami et Demain”(津波から明日へ)の会場で、パリ在住のアーティストに声をかけ、作品を販売して寄付するアートマルシェを開催しました。また、“Art Tails”http://www.arttails.org/(世界各国のクリエイターによる、収益全額寄付の東日本大震災復興支援チャリティー・アートブック)にも作品を提供しています。